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神戸地方裁判所 昭和59年(ワ)56号 判決

原告

甲野太郎

右訴訟代理人弁護士

泉公一

被告

神戸市

右代表者市長

宮崎辰雄

右訴訟代理人弁護士

奥村孝

中原和之

主文

一  被告は原告に対し、金四一六六万三九六〇円及び内金四〇六六万三九六〇円に対する昭和五六年九月八日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は被告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は原告に対し、四三六六万三九六〇円及び内四二六六万三九六〇円に対する昭和五六年九月八日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  本件事故の発生

(一) 手術に至る経緯

(1) 原告は、大正八年生れの男子であるが、昭和五六年四月ころから尿を時々漏らすようになつたため、同五五年にかかつた脳梗塞の予後及び尿失禁の治療のため、同五六年七月一七日、被告の設置・運営する神戸市立西市民病院(以下「被告病院」という。)の脳神経外科で受診し、諸検査のため同月二一日から同年八月七日まで入院した。

(2) 諸検査の結果、原告に対し腰椎椎間板ヘルニアとの診断がくだされ、担当医師河上靖登(以下「河上医師」という。)から、頸椎に炎症があること、腰椎部分の軟骨が横にはみ出しており、これが尿失禁の原因であること、腰椎のとび出している軟骨を削り取る手術をすれば尿失禁が治り、また、歩きやすくもなるし、性的機能も回復すること、手術は全身麻酔をかけて行ない三時間位かかること、手術後二〇日位で退院可能なことの説明があつた。

(3) 原告は、被告病院で手術を受けることとし、同年八月三一日再入院し、同年九月七日腰椎椎弓切除の手術(以下「本件手術」という。)を受けた。

(二) 本件手術の内容

原告を腹臥位にして、背中の第四腰椎を中心に正中切開し、脊椎に達すると脊椎(棘突起、椎弓)に付着している筋肉を電気メス等を使つて剥離し、第四、第五腰椎を露出した後、その椎弓を器具(ロンジュール)で約一センチメートルの幅で取り去り、続いて、前方にある黄靱帯をピンセットで取つた。なお、出血に対しては電気療法(バイポーラ)で出血部位を焼いて止血した。更に第四、第五腰椎付近の硬膜をメスで縦に約二センチメートル切開し、切れ端をピンセットでつかんで横に広げ、はさみで斜めに切つて硬膜を切除したうえ、切除部分に人硬膜を多少の余裕をもたせながら縫いつけ、縫い合わせた。

なお、本件手術は、原告の主治医である横山芳信(以下「横山医師」という。)及び河上医師の共同で行なわれた。

(三) 本件手術後の症状

(1) 手術の翌日である同月八日、原告は自力排尿不能(尿閉)、肛門周辺(第二、第三仙髄神経領域)の知覚麻痺を生じ、同月一〇日には、これに加えて、便秘状態と便失禁の症状が合わせて現われ、同年一〇月五日にはアキレス腱反射(ASR)が消失した。そして右各症状は、被告病院を退院する同年一二月一五日まで改善されることはなかつた。

(2) 原告は、同日、神戸市兵庫区西多聞通所在の末光泌尿器科に転院したが、その後も前項の症状が改善されなかつたところ、同五七年六月二〇日、腹痛を覚え、異常な腹部緊満の状態となり、翌二一日には危篤状態となつたため、同日末光医師の指示で、同区荒田町所在の小原病院へ転送され、腸閉塞との診断のもとに開腹手術を受け、人工肛門を取り付けた。右開腹手術の結果、肛門から胃近くまでの消化管内部に便が詰まつていたことが容態悪化の原因であることが判明したが、腸閉塞の機械的原因たる腸の軸捻及び腫瘍等は認められなかつた。

(3) 同五八年一月三一日、原告は小原病院で再度の手術を受け、人工肛門は取り除かれたが、本件手術直後から出現した自力排尿不能及び便失禁の状態は不変であり、他方では、その後も、便が腸管内に貯留するため浣腸を欠かせず、同五九年もしくは六〇年には便の貯留による通過障害のため、開腹手術が行われたことがある。

2  被告の責任

(一) 不法行為

(1) 本件手術部位は第四、第五腰椎付近であり、脊髄神経等に損傷を及ぼす危険を有する手術であつたから、原告が手術を受けるか否かを自由かつ真摯に選択できるよう担当医師は本件手術に先立つて、手術の内容、手術による症状改善の程度、手術をしない場合の症状の進行程度、手術による悪化の可能性及び手術における生命・身体の危険性等につき説明する義務があるところ、被告の被用者である河上、横山両医師は原告及び原告の妹である二宮毎子に対し、前掲1(一)(2)程度の、しかも過大な効果を期待できる旨の説明をしたにとどまり、手術における生命・身体の危険性について何ら説明をしなかつた。

従つて、右両医師のした本件手術は、原告の自由な意思決定に基づかないものとして違法である。

(2) 原告の本件手術部位付近については、手術前のミエログラフィー等の諸検査でほぼ完全ブロックに近い状態であることが確認されていたし、本件手術時においても、第四・第五腰椎付近は、硬膜、くも膜、馬尾がほとんど接着状態にあることが判明した。右のような状態において、ロンジュール、電気メス、はさみ、縫い針等の医療器具を使用するのであるから、脊髄神経等を損傷する危険があり、従つて、本件手術にあたり、執刀医師は脊髄神経等に損傷を与えないように十分な注意をして手術器具を操作し、手術を施行すべき義務を負つているところ、河上、横山両医師は右注意を怠り、原告の第四、第五腰椎付近の脊髄神経のうち馬尾の部分(以下「馬尾神経」という。)に損傷を与えた。

(二) 債務不履行

(1) 原告と被告との間では、遅くとも同五六年八月三一日に当時の医療水準に照らし相当な治療行為として、本件手術を施行することを目的とする準委任契約が成立した。

(2) 従つて、被告は原告に対し、本件手術についての説明を行なつたうえ、原告の生命・身体に危険を及ぼすことなく手術を遂行する義務を有していたところ、前記(一)(1)、(2)のとおりこれを怠つたものである。

3  因果関係

原告は、本件手術を受けるまでは脳梗塞の既往症による軽度の歩行障害があり、また、頻尿を訴えていたものの入院の必要はなかつたところ、本件手術直後から、手術前には存在しなかつた尿閉及び便失禁の障害が発生し、更に麻痺性腸閉塞を起こし、その後腸管内の便の貯留に悩まされ、毎日浣腸を必要とする状態にあるから、原告の右障害はいずれも、本件手術中の第四、第五腰椎付近の馬尾神経の損傷が原因となつたものであることは明らかで、その結果、原告は次の損害を被つた。

4  損害

(一) 治療費

二一八三万三一〇〇円

被告病院、末光泌尿器科及び小原病院で、同六一年一月末日までに要した入院治療費である。

なお、右治療費は生活保護法に基づき神戸市が支出したものであるが、同法により、原告が被告から賠償を受けたときには右金額の返還を要するものであるから、原告の損害である。

(二) 付添看護費

一〇八三万〇八六〇円

(1) 被告病院入院中の費用

原告の被告病院入院中の期間のうち同五六年九月八日から同年一二月一五日までの九九日間、二宮毎子が付添看護にあたり、右付添看護相当損害額は一日につき三五〇〇円の計三四万六五〇〇円である。

(2) 末光泌尿器科及び小原病院入院中の費用

原告は同日から同五七年六月二一日まで末光泌尿器科に、その後小原病院に入院している同六一年一月末日までの付添看護費用計一〇四八万四三六〇円。

右費用も前記(一)と同様生活保護法に基づき神戸市から支出され、返還を要するものである。

(三) 慰謝料 一〇〇〇万円

原告は本件手術により尿閉及び便失禁となり、カテーテル及びおむつを常時装着するという成人男子として屈辱的な生活を強いられ、今後も回復の見込みがたたない。更に、腸閉塞も合併し、一時人工肛門による排便を余儀なくされた時期もあつた。これによる原告の精神的苦痛は甚大であり、その慰謝料は一〇〇〇万円をくだらない。

(四) 弁護士費用 一〇〇万円

5  よつて、原告は被告に対し不法行為の使用者責任に基づく損害賠償請求として、又は債務不履行に基づいて前項(一)ないし(四)記載の合計四三六六万三九六〇円及び右金額から弁護士費用一〇〇万円を控除した四二六六万三九六〇円に対する本件手術の翌日である同五六年九月八日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1(一)(1)ないし(3)及び(二)の事実は全て認める。

2  同1(三)(1)の事実(但し、便秘の点は除く。)及び(2)のうち原告がその主張の日に末光泌尿器科に転院した事実は認めるが、右便秘の点は争う。同(三)のその余の事実は知らない。

3  同2(一)(1)は否認する。

河上医師は、同五六年七月二九日以後同年八月七日に原告が退院するまでの間、二宮毎子に対し、頻尿を防止するため手術を要するが手術部位が馬尾神経の付近であり、手術によつて馬尾神経に新たな障害を与える可能性があること等を含め、検査結果、今後の方針、手術の方法及び手術の予後の予見について何度も十分な説明を行なつた。

4  同2(一)(2)の事実は否認する。

仮に、本件手術中に馬尾神経の損傷があつたとしても、河上、横山両医師は、本件手術の危険性を認識し、高度な注意義務をもつて本件手術を施行したにもかかわらず生じたものであり、手術としては止むをえないものである。

5  同2(二)(1)の事実は認め、(2)は否認する。

6  同3のうち、原告が本件手術直後から尿閉及び便失禁の障害を生じたことは認め、その余は争う。

(一) 原告には本件手術前から馬尾神経の障害を原因とする頻尿の症状が現われており、本件手術後の障害は右の悪化にすぎず、本件手術による新たな馬尾神経の損傷を原因とするものではない。

(二) 麻痺性腸閉塞は脊髄等の中枢神経の障害から生ずる腸の蠕動運動低下が原因であるが、本件手術部位付近には中枢神経は無いし、また、原告の腸閉塞は本件手術後一〇か月近く経過後一時的に起こつたものであるから、本件手術とは因果関係がない。原告の腸閉塞はむしろ、同五七年六月二一日の開腹手術に先立つ同月一一日から二一日まで末光泌尿器科で投与された薬品ロペミンの作用による。

7  同4は全て争う。

第三  証拠〈省略〉

理由

一請求原因1(一)(1)ないし(3)、(二)、(三)(1)(但し、便秘の点は除く。)の各事実及び(三)(2)のうち原告がその主張の日に末光泌尿器科に転院した事実は当事者間に争いがなく、請求原因1のうちその余の事実については、〈証拠〉を総合すると、全て認めることができる。

二(被告病院の説明義務違反について)

〈証拠〉によれば、河上医師は、同五六年七月二九日の検査後に、ほぼ毎日来院していた原告の妹の二宮毎子に対し、検査の結果、今後の方針及び手術のマイナス面プラス面を毎日のように説明したことが認められ、その説明が術後原告に現われた全症状の細部にわたる具体的かつ詳細なものであつたかどうかについては疑問がないではないが、尿、便の排せつ機能により大きな障害を生ずる危険もあることにつき少なくとも一般的な説明をしたことがうかがえるのであり、また、こうした説明をふまえ、二宮は同年八月二五日に入院予約をし、同年九月四日手術・検査承諾書に署名したことが認められる。証人二宮毎子の証言中右認定に反する部分は、右各証拠に照らして信用することができない。

そして手術の説明としては、前記の程度のもので足りると解すべきである。

三(馬尾神経の損傷について)

〈証拠〉によれば、脊髄は第二腰椎上縁で終了し、その下方へは脊髄神経繊維の束が伸びていて、これを馬尾と称し、本件手術部位である第四、第五腰椎付近では第五腰椎神経は既に馬尾から枝分かれしているが、その下方の第一仙髄神経以下の神経は馬尾から枝分かれしておらず、馬尾の損傷によつて影響を受け、例えば第三、第四仙髄神経を損傷した場合、肛門活約筋の運動障害を引起こし、肛門付近の知覚障害を生ずること、また、アキレス腱等の深部反射が消失すること、馬尾には自律神経(特に副交感神経中、第二ないし第四仙髄から出て下行結腸、直腸、生殖器などに分布するもの)があり、これを損傷することによつて、膀胱、直腸障害を起こし、頻尿、尿閉、便秘及び便失禁の症状が現われたり、性機能障害を生ずることが認められる。ところで原告には本件手術直後から尿閉及び便失禁の各症状が現われ、本件手術後の同五六年一〇月五日にはアキレス腱反射が消失したことについては、当事者間に争いがない。証人河上靖登は、原告の肛門付近の知覚麻痺、便失禁及び尿閉は馬尾神経の障害によるものであるとし、かつ、馬尾神経の障害の原因としては、手術時の出血及び感染なども考えられるが、原告の場合、手術部位に血腫が出来た可能性はなく、また、本件手術後の原告の状態から考えて感染の可能性も低く、結局手術操作によるものだといい、あるいは、本件手術中、椎弓を切除していく際や硬膜形成の段階で医療器具が馬尾神経に非常に接近する旨供述する。そして、成立に争いのない乙第二号証(うち一〇ページ)の本件手術についての報告とみられる書面には、馬尾神経損傷、第二、第三仙髄麻痺の記載がある。

以上の事実によれば、本件手術中に原告の第四、第五腰椎付近の馬尾神経が損傷されて、膀胱、直腸障害及び肛門活約筋の麻痺が生じ、これによつて原告に尿閉、便失禁及び便秘の各障害が生じたものと認めるべきである。

なお、被告は、原告の右各障害は従前からの馬尾神経の障害が悪化したものである旨主張するが、既に認定したとおり、本件手術中の馬尾神経の損傷の事実を否定することはできず、また、本件手術後の各障害は、手術前には全く存在していなかつたし、本件手術前の頻尿が馬尾神経の障害を原因とするものであつたとしても、本件手術後の各障害は手術前の障害とは質的に異なるといつてもよい重大なものであることなどからすれば、本件手術後の各障害が従前からの馬尾神経の障害の悪化と見ることは到底できない。従つて、被告の主張は採用することができない。

更に被告は、仮に馬尾神経の損傷があつたとしても、それは外科手術の性質上止むをえないものである旨主張するが、前掲甲第五号証によれば、腰椎椎弓切除術は一九四五年以前から我が国でも行なわれ、現在術式も確立し広く普及している手術で、手術成績も極めて良好であることが認められる。成立に争いのない乙第七号証には、手術成績はあまり良くない旨の記載があるが、これは頸椎症の場合であり、本件手術にあてはまらない。また、証人河上靖登の証言によれば、河上医師は、医師の資格取得後一三年間に同種の手術を多数手掛けており、その経験からこの種の手術においては馬尾神経を損傷する可能性は極めて低いというのである。もつとも同証人は、神経外科の手術は普通に手術をしても必ず何パーセントかは悪い結果が出るものである旨も証言するが、これは、人間だから誰でも過ちはあるという主張に類する議論であり、社会生活上、そうだからといつて過失により他人に損害を与えた者が免責されるものではないことに照らすと、その理由のないことは明らかである。

従つて、本件手術中の馬尾神経の損傷は不可抗力ということはできず、むしろ、十分な注意によつて容易に回避できる治療行為の範囲内にあるのに、手術操作の過誤によりこれを回避できなかつたと認められるから、被告の主張は採用することができない。

四(本件手術と腸閉塞との因果関係について)

〈証拠〉によれば、同五七年六月二一日の開腹手術直前の原告の症状から腹鳴は聞かれず、開腹手術時に腸に軸捻及び腫瘍はなかつたが、便が肛門付近から胃近くまで詰まつていたこと、直腸から横行結腸までの大腸が健康体であれば直径約三ないし四センチメートルのところ原告の場合直径約八センチメートルまで拡張していたことが認められる。そして、消化器外科の専門医である同証人の証言によれば、原告の前記症状から一応麻痺性の腸閉塞と言うことができるが、腸閉塞を生ずる神経領域は広く、原告のように馬尾神経に損傷を受けた場合影響を受けるのは腸管の最後の一〇センチメートル位、すなわち直腸の付近であり、この部分の障害で便秘の症状が起こるし、麻痺あるいは不全によつて腸閉塞が起こることもあるというのである。

既に認定した通り、原告は直腸障害及び肛門活約筋の麻痺が原因とみられる便失禁と便秘状態が本件手術直後から続いていたのであり、また、直腸から横行結腸までの腸管が拡張していたことからみると、この部分の不全がうかがえるのであつて、これらの事実に〈証拠〉を合わせて考えると、原告の腸閉塞は本件手術時の馬尾損傷が原因であると推認することができる。従つて、腸閉塞は馬尾神経の損傷では起こらない旨の被告の主張は採用しない。

なお、被告は、原告の腸閉塞は本件手術後一〇か月近く経過した後一時的に生じたものであるから、本件手術との因果関係はなく、むしろ、原告の腸閉塞の原因は末光泌尿器科で投与された薬品ロペミンの作用である旨主張するのであるが、証人奥野邦男の証言によれば、腸閉塞が馬尾神経の損傷後どの程度の期間を経過して起こるかは一律にはいえず、本件手術が原因と考えて矛盾はないというのである。また、〈証拠〉によれば、原告は同五七年六月一一日から同月二一日までの間、末光泌尿器科でロペミンを服用したことが認められ、〈証拠〉によれば、ロペミンには便秘を起こす作用があることが認められるが、同証人の証言によれば、同五九年ないし同六〇年にも、原告は便の貯留による通過障害のため再度開腹手術を受け、浣腸を使用しているのであり、既に述べた通り、本件手術直後から便秘の症状があつたことも照らし合わせると、同五六年六月二一日の手術にかかる腸閉塞にロペミンの作用が全くなかつたとは言えないにしても、主たる原因でないことは明らかであるから、被告の前記主張は採用できない。

五(損害について)

1  二宮の付添看護費

〈証拠〉によれば、原告には付添看護が必要であつたため、被告病院入院中の同五六年九月八日から同年一二月二五日まで二宮が原告に付添つていたことが認められ、右付添看護費は日額三五〇〇円とみるのが相当であるから、その合計は三四万六五〇〇円となる。

2  治療費及びその他の付添看護費

〈証拠〉によれば、原告は同六一年一月末日までに、その主張のとおり、二一八三万三一〇〇円の入院治療費(請求原因4(一))及び付添看護費一〇四八万四三六〇円(同4(二)(2))を要し、これらは生活保護法に基づく医療扶助によつて支払われたことが認められる。

そうであるなら、同法六三条により、原告に費用返還義務が課せられるから、右各費用は原告の損害とみなすべきである。

3  慰謝料

証人奥野邦男の証言によると、前記認定の原告の各障害は現在もいぜんとして変化がないことが認められる。右各障害の程度及び本件にあらわれた一切の事情を考慮すると、原告に対する慰謝料は八〇〇万円と認めるのが相当である。

4  弁護士費用

本件事案の内容及び審理の経過等を考慮すると、被告に賠償さすべき弁護士費用は一〇〇万円と定めるのが相当である。

そうすると、原告の損害は以上1ないし4の合計四一六六万三九六〇円となる。なお、仮に被告に債務不履行責任があるとしても、その損害額はこれを上回ることはない。

六よつて、原告の請求は、前項の損害四一六六万三九六〇円及びこのうち弁護士費用を控除した四〇六六万三九六〇円に対する本件手術の翌日である同五六年九月八日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余の請求は失当であるから棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、仮執行宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官中川敏男 裁判官東修三 裁判官松井千鶴子)

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